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2018.04.04

【Japan Forward】(シリーズ2)

産経新聞の英字新聞で寄稿文を英語で発信してくださいました。提出した日本語は以下のとおりです。長文なので分割して掲載になります。
英語での発信の機会を頂き関係者の皆様に感謝です。
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【捕鯨問題の原因】
 賛成派と反対派が激しく対立する捕鯨問題は近年、解決策が見つからない袋小路に入った感があるが、その大きな原因は言葉の壁とメディアのプロパガンダ合戦にあったと思う。これまで、海外の報道機関は「全ての鯨は絶滅に瀕している」「鯨には水銀が含まれており毒だ。食べると、水俣病になりうる」「日本の捕鯨は違法だ」「日本人は残虐行為をしている」などと報じてきたが、一方で日本からは、こうしたフェイクニュースや誇張表現に効果的な反論を展開することはなかった。日本語ではなく、英語で主張しなければ、世界には伝わらない。これは現在、日本と諸外国の間に起きている様々な摩擦の構図と一緒で、その問題について海外で何を伝えられているか、日本人はしばらく気がつかず、事が大きくなってから、問題の深刻さを知ることが多いように思う。

日本の発信力の弱さはこれまで多くの方々が指摘してきたが、私は国境と言葉の違いを乗り越えるために、映画を制作することが最も適していると考えた。それでも、いざ挑もうとしても、「反論は煽るだけ、危険だ」と遠回しに批判する人がいた。堂々と主張しないことを良しとする風潮が根付いてしまい、淡々と「事実を伝えること」というニュートラルな営みでさえ、長らく放置されてきた。

海外に事業展開する日本企業の殆どは捕鯨を支持すれば、反捕鯨派の方々から不買運動が起こるリスクがあり、この問題に直接的に関わるのを避けてきた。それは、映画業界でも例外ではなかった。私の作品も当初は配給会社も海外セールスもつかず、自分の作品を自ら海外マーケットに売りに行き、なんとかして海外の方々に見てもらおうと奮闘した。

素人の私に、業界関係者とコンタクトを取るノウハウは全くなかった。映画祭での上映手続きや、世界から集まるバイヤーへのアポイント取りなど、体当たりで取組んだ。2016年5月にフランスのカンヌ国際映画祭が行われた際も、いま、振り返ると無謀だったと思うのだが、現地のマーケットに出向き、私の作品を売り込もうともした。

カンヌでは、シー・シェパードの創立者ポール・ワトソンに偶然、出会える機会があった。彼は映画祭の期間中、世界中のメディアを集めて、日本の捕鯨を批判する映画製作のプロモーション活動を行っていた。捕鯨問題の解決に少しでも尽力しようと、暗中模索の中で苦しんでいた私にとって、彼に会えたことは進むべき一つの灯火を見つけたような気がした。彼は世界中に信者がいて、影響力も大きい。今後、最も話し合いを深めていかなくてはいけない相手との面会に意義高いものを感じた。
映画祭では、彼はまるで人気スターのように扱われていた。彼はフレンドリーに接してくれ、私との写真撮影にも応じた。

カンヌ映画祭の会場前は地中海に面しており、ワトソンと面会したときに、シー・シェパードの船が停泊していた。私はあの船が日本の捕鯨船に体当たりした船ではないかと思って、ワトソンに「一度、あの船に乗せてもらえないか」と申し出たところ、彼はあっさりと了承してくれた。いまのところ、この企画は実現していないが、チャンスがあれば船の中がどうなっているかこの目で見てみたい。もちろん、ワトソンとの口約束で終わるかも知れない。

私の挑戦はアメリカにも及んだ。2016年11月、「ビハインド・ザ・コーヴ」のアメリカ国内での劇場公開を果たすことができた。米国メディアの記者による批評記事も現地の協力者の支援があって実現し、なんとか映画界の殿堂であるアカデミー賞の対象作品に入るための条件を満たすことができた。形式の上では、「ザ・コーヴ」と同じ土俵に乗ったことになる。私にとって、アメリカでの劇場公開は、アカデミー賞の審査員に、「ザ・コーヴ」が賞を受賞した後の和歌山県太地町の騒動を見てもらうことを目標にしていたので、これでなんとか願いの1つがかなったような気がした。

しかし、このとき、アメリカの地で目の当たりにしたのは、大手映画配給会社が大金を費やして、アカデミー賞選考委員に、自社の作品を売り込むロビー活動だった。2009年に「ザ・コーヴ」が公開された際、映画制作者側が審査員にアピールする活動は派手だったと関係者から聞かされた。批評記事でさえ、ハリウッドに影響力を持つロビイストの顔が物を言う世界で、個人で戦う私にはとうてい太刀打ちできない高い壁が立ちはだかり、正直、精魂を使い尽くしてしまっていた。

私はこの映画を制作する前、ハリウッドの映画配給会社の日本支社で勤務していたが、自分自身で一から最後まで配給の手続きをしたことはなかった。ましてや本場ハリウッドに自分の作品を持って乗り込むという無茶な事をするなんて、当時は考えもつかなかった。
一生に一度出来るか出来ないかの挑戦であり、多くの時間と労力を費やしたが、むしろ世界展開の難しさに直面して、途方に暮れた。

そんなとき、願ってもない幸運が訪れた。世界最大ユーザーを誇るNetflixが、世界配信の話をいただいた。僥倖にめぐりあうというのはこういうことかもしれないと感じた。この世界配信で一気に視界が開けたような気がした。Netflixの関係者の方々には、感謝しても感謝しきれない。

現在、『ビハインド・ザ・コーヴ』はNetflixを通じて世界189カ国に多様な言語で配信されており、飛躍的に私の作品への鑑賞が容易となった。Netflixでの配信は、捕鯨問題の大きな障害だった、国境と言葉の壁を取り払ってくれた。そうして、2017年8月に配信が始まると同時に私の元に、率直な感想や、捕鯨問題に関する意見が寄せられるようになった。

特に捕鯨問題に関心が高い米、英、オーストラリアの方から、「アメージング!(目からウロコ)」という声をいただく。反捕鯨の立場にあるからこそ、私の作品に関心を持ったのかも知れないが、映画への非難は思いの外少なく、知的好奇心が旺盛な方々から多数の意見がよせられた。名門大学の教授が、自分たちの住んでいる環境では、知る事が出来なかった歴史的な事柄が『ビハインド・ザ・コーヴ』では描かれているというメッセージもいただいた。好意的な感想が圧倒的に多かった。

'Behind THE COVE': A Visual Take On the Whaling Issue | JAPAN Forward

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