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2018.04.03

【Japan Forwad】(シリーズ1)

産経新聞の英語新聞で掲載してだくさいました。
日本語原文は以下のとおりです。
英語での発信の機会を頂き関係者の皆様に感謝です。
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「最優秀監督賞の受賞は、『ビハインド・ザ・コーヴ』を制作したケイコ・ヤギ!」
 周囲から拍手と「おめでとう!」との声があがった。司会者に促され、会場の中央に立った私は拙い英語でこうスピーチした。
「これまで、日本の捕鯨は残虐であると一方的に伝えられてきましたが、今回、違う意見があるという機会を与えてくださり、そして、それが評価されたことに感謝しています」
 2018年2月17日、ロンドン市内の四つ星のホテルで開かれていたロンドン・フィルムメーカー国際映画祭の授賞式。米アカデミー賞ドキュメンタリー賞を受賞した『ザ・コーヴ』の反証作品として私が2015年に制作した『ビハインド・ザ・コーヴ』が同映画祭長編ドキュメンタリー部門の監督賞、作品賞、編集賞の3部門にノミネートされ、私はこの授賞式に出席していた。

『ザ・コーヴ』は和歌山県太地町で行われている追い込みイルカ漁を批判的に描き、米アカデミー賞を受賞して捕鯨問題の行方に大きな影響を与えた作品だ。2009年に公開されると、世界各国で日本の捕鯨やイルカ漁に激しいバッシングがわき起こり、この映画を見た複数の反捕鯨団体のメンバーが争うように紀伊半島の小さな港町に集まり、抗議活動を繰り広げるようになっていた。
『ザ・コーヴ』は、日本の捕鯨やイルカ漁に反対している人々の取材しかしていないので、シーソーで言えば、片方には反対派の方々が乗っかっているが、もう片方には賛成派が乗っかっていない不釣り合いで、不公平な作品だった。ドキュメンタリー映画というのは、制作者が、その問題の賛成派も反対派に公平に取材して、視聴者に彼らの主張やその背景までを伝えることが、本来あるべき理想ではないだろうか。

私は『ビハインド・ザ・コーヴ』を制作する際に、『ザ・コーヴ』のような手法ではなく、日本の捕鯨に長年、携わり、クジラとともに生きてきた方々や、一方で捕鯨に反対する活動家にもちゃんと話を聞いた。双方に突っ込んだ質問を投げかけて、それを映像にとらえ、捕鯨問題の現状をありのままをみせることに努めた。普段の報道では時間や行数が限られており、表面的な事柄しか、伝えられていないのではないかと感じ、映画という長い尺の中では、何が問題かを深く掘って行く必要があると思った。

ドキュメンタリー作品を制作する際に、明らかに違うモノをシーソーの中心点をずらして、どちらも同等に見えるようにしたものは、ニュートラルとは言えないフェイクだ。現実をそのまま伝えるのが重要なのだ。

 ロンドンは、クジラやイルカを食用に用いることを全く理解できない反捕鯨派の方々が活発に運動を繰り広げている場所だ。捕鯨国日本はバッシングの対象となり、前日には、日本大使館前で活動家が集まって、「Shame on You!」(恥を知れ!)などと声を荒げるイベントが開かれていた。そうした活動家の総本山の地とも言えるロンドンで、日本からの反論を色濃く描いた私の作品が受賞したことは、捕鯨への理解に大きな意味があるという確かな思いが後からじわじわ沸いてきた。 私に監督賞を与えることを選んだ選考委員も大半の方々は、捕鯨問題への深い理解があったようには思えない。むしろ捕鯨へ強い反対意見を持つ委員もいたに違いない。それでも、
主催者側から、今回、受賞に至った主な理由は「ニュートラル」「情熱的」「映画として素晴らしい」の3点にあったと説明してくれた。

 捕鯨に賛成だろうと、反対だろうと、双方に取材をして、バランスよく編集している作品だと高く評価してくれたことは、とても嬉しかった。『ビハインド・ザ・コーヴ』は私が撮影、編集した初めての本格的なドキュメンタリー作品であり、制作する以前は私も捕鯨問題やイルカ漁へのバッシングの背景を深く知らなかった。偶然の縁が重なって、この問題のキーパーソンに深い話を聞くことができた。この問題の現状を世界に発信することは自分に課された使命とも感じ、お世話してくださった方々への恩返しの思いも込めて、なんとかこの作品を海外へ広めようと動き回っていた。その一貫でイギリスの映画祭に参加していた。

苦労は絶えず、途中で、私自身もバッシングを受け、この問題の矢面に立った。日本での作品公開日には、反捕鯨を応援するハッカー集団から標的にあい、作品の公式サイトと映画館のサイトが一時閲覧中止になる事態にも追い込まれた。そうして、さまざまな逆境を乗り越え、全身全霊でこの作品に投じてきた努力が、今回の監督賞の受賞で、少しは報われた気がした。授賞式のスピーチでは、嬉しくなり「Whale meat is delicious!」と伝えたが、会場の多くの西洋人の方々は、拍手と笑いで迎えてくれた。

Director Keiko Yagi: Why I Had to Make 'Behind THE COVE' Amid the Anti-Whaling Uproar | JAPAN Forward

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